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みちのくの駆け足旅  …2

 心ほのぼの恐山   

恐山冷水
残雪の中、冷水は流れる
山門
意外と開けた山内
口寄せ
観光資源化イタコ
山内風景
典型的な恐山的風景
宇曽利湖
写真だけだと荒涼だが
賽の河原
賽の河原投銭禁止令
お地蔵様
継ぎ接ぎなのはなぜ?
スパ!
湯が沸き出している
温泉小屋
これは立て直したばかりのほう
温泉内部
秘湯ムード100点
看板
犬猫を入湯させる奴がいるってこと?

 日本三大霊場のひとつ、恐山はシトシトと雨に包まれていた。霧(あるいは雨雲の中にいたのかもしれないが)にも包まれ、お世辞にも観光日和とはいえない。いや、見方を変えれば恐山行にはうってつけのシシチュエーションなのかもしれない。
 車はいくつもの急なカーブを曲がりながら山の奥へ向かっていく。残雪が目立つ。道路脇まで雪が数十センチの厚みで残っいる。さすが本州の北端。
 と、道路端にお地蔵さまがあるのに気づいた。しかもいかにもな白いほっかむり姿。一か所なんてものではなく、大きいの小さいのとり混ぜてカーブごとにいらっしゃる。 「うわぁ…」 と思う一行であった。“霊山”というおどろな気分はいやおうもなく高まっていく。

 途中に湧水場があった。その名も恐山冷水。案内板によれば不老水として有名だそうだが、そりゃ死んだら歳とらないよなぁ。飲んでみるとまったく癖のない軟水(だと思う)。うまい。入山のお清めにもちょうどいい(?)

 いくつかのカーブを曲がりきると突然視界が開けた。目の前に大きな湖、宇曽利山湖が広がっている。そこが恐山だった。意外や開けた感じで、怖いというよりもフランクな雰囲気である。たぶん空が広くて開放的なのとまわりを森に囲まれていてつき放された感じがないせいだろう。小雨状態でもそう感じるのだから、晴れた日ならおそらくハイキング気分になっていたに違いない。

 入山するといきなりイタコショー(?)の立看板があった。俗っぽいね、と思いつつ戸の隙間から覗いてみると確かにイタコがいた。しかもちょうど札勘定をしていた。これが決定打で、一気に現実に引き戻される。恐山、恐れるに足らず。

 山内をひとめぐりするコースを歩く。
 途中の四阿にカラスの大群がたむろしている。場所柄、一見恐ろしげだがなんのことはない。単にそこで餌付けされているだけらしい。だから人なつこい、とまではいかないまでも、近寄っても逃げないしカメラを向ければ愛想も振りまく。
 おなじみの賽の河原も水子供養の地蔵や風車があるが、あまり侘しさ、怖さは感じられなかった。そもそもまわりをみても巡礼などといったディープな人など見あたらない。観光バスで乗り付けてきた人ばかりだ。もちろん皆が皆、観光気分の物見遊山とまではいわないが、少なくともヤンキー系のカップルが信仰のために来たとはどうしても思えない(水子供養かもしれないけれど)。

 実のところ、オレの恐山感とは、草木も枯れ果てた荒涼たる岩山、吹き荒ぶ風にあおられる風車、壊れかけた掘っ立て小屋で一人数珠を揉む老イタコ、といった、まあ典型的ではあるがかなり歪んだイメージなのだ。で、実際来てみれば、部分的には思いどおりだが、全体としてはのほほんとしたムードのなごみ系スポットである。
 まわりを森林に囲まれ、気持ち的には“霊山にいる”というよりも、“山登り”の気分のほうが強かったせいもあるだろう。また冬が終わり開山して間もないという状況で、信仰的なモニュメント、例えば賽の河原の石の山などが、まだできていないということもあろう。

 そして実はこれが一番の理由かも知れないが、山全体を包む硫黄の香りが温泉気分を思わせてならないのであった。河原や湖も流れ出す硫黄で黄色く染まっている。また地面からボコボコと湯が沸き出しているところもある。つまり源泉ムード満載ということだ。
 そうなのだ。恐山での一番の目的は、観光もさることながら、山内にある温泉に入ることに他ならなかった。
 山をひととおり見て回ると、我々は木造の温泉小屋へそそくさと向かった。戸を開けるとちょうど最後の一人がでるところで、我々はタイミングよく温泉を占有することができた。木の枠で囲まれた浴槽の壁面全体が湯の花でおおわれている。これでもかという硫黄臭が鼻をつくが、これが温泉の醍醐味なのだ。
「あぁ〜」
 かなり熱い湯船に体を浸す。これぞ秘湯。体の心から満足である。
 しかし、我々が来た後は一人の湯治客も入ってこない。せっかくここまで来ておいて、なんで温泉にはいらないのか不思議だと思う反面、そのおかげでゆったり気分を味わえるこの状況に感謝する。

 恐山には計4つの湯があった。男湯、女湯、寺男専用、そして混浴である。とりあえず男湯を制覇した我々は、勢いで混浴に向かう。さっきの様子ならどうせ誰も入っていないだろう。
 と、勇んで戸を開けると、ちょうどお婆さんが服を脱いでいるところ。あらら。目があったオレはかなり狼狽え、もちろん混浴は断念した。



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